木造建築のスペシャリストである木造建築士は、国土交通省が管轄する国家資格です。一般的な木造建築物の工事や管理といった仕事に携われるだけでなく、古い家屋や神社など歴史的建築物の工事も行えます。
木造建築士の資格を得るためには試験に合格する必要があるので、受験対策の勉強が必要です。また、受験資格もあるため一定の条件を満たさねばなりません。
そこで今回は、木造建築士を目指す人のために、国家資格の概要や仕事内容、資格の取得方法などについて解説します。
木造建築士とは?
まず木造建築士の国家資格と仕事の概要を紹介します。
木造建築士の資格概要
木造建築士とは国土交通省が管轄する国家資格で、2階建てまでの木造建築物で、かつ延べ面積が100平方メートル以上300平方メートル以内の建築物の設計や、工事管理などに従事することが可能です。つまり、木造住宅などの一般的な木造建築物の工事や修繕ができる国家資格といえるでしょう。
二級建築士の国家資格を持っていれば、木造建築士が実施する業務をカバーすることはできます。しかし、古い木造家屋や神社、仏閣など、専門的な木造建築の知識が必要になるケースも多く、木造建築の知識とスキルを持つ木造建築士の資格が必要になるのです。
参考:国土交通省/建築士制度
木造建築士の仕事内容
木造建築士の仕事内容は、一級、二級建築士と同じような内容ですが、先ほど紹介した規模以上の建築物の工事には対応できません。そのため、やや業務範囲が限定的だといわざるを得ないでしょう。
具体的な仕事内容としては、建築物の計画と設計、クライアントとの打ち合わせ、図面作成、建築確認申請の手続き、工事の設計監理などが挙げられます。小規模な工務店の場合、業務範囲が多岐にわたる可能性が高まるため、仕事は大変ですが、さまざまなスキルを早く身につけられるでしょう。

木造建築士の資格を取得するメリット
木造建築士の国家資格を取得するおもな取得メリットと、年収相場を紹介します。
木造建築士になるメリット
木造建築物に特化した知識で専門的な仕事に従事できる点が、木造建築士の資格を取得するメリットです。二級建築士の国家資格でもほぼ同等の仕事が行えますが、古い民家や神社、仏閣といった、専門的な知識が必要な木造建築物の工事や管理に携われる点は大きな違いといえます。
例えば、木造建築士の資格を活かして宮大工になれば、一般的な大工では扱えないような歴史的建築物の建築や修繕といった仕事に携わることも可能です。歴史的建築物を後世に残すために尽力できることは、非常に価値が高いことだといえるでしょう。
一方、最近は自然素材を多く使った建築物が見直されているため、木造の公共施設が増加傾向にあり、木造建築士の活躍シーンが増えている状況です。
木造建築士の年収相場
木造建築士の年収は、みならいの場合、250万円~350万円程度が相場といわれています。ただし、経験やスキル、また勤めている工務店や建築会社の規模などによっても大きく変動するため、一概にはいえません。
木造建築士の資格を取得していれば、木造住宅を扱う工務店や建築会社への就職が有利になりますが、おすすめは他の資格との組み合わせです。例えば、二級建築士や建築大工技能士などと組み合わせることで、より幅広い工事に携われるようになり、キャリアや年収アップにつなげられます。この他にも、建築設備士や耐震診断士、インテリアコーディネーターや福祉住環境コーディネーターなどの資格と組み合わせることで、市場での希少性がより増すことでしょう。
木造建築士のおもな就職先
木造建築士の資格を取得した人のおもな就職先を紹介します。
工務店・建築会社
木造建築士の就職先としては、やはり工務店や建築会社が一般的です。建築物の工事はもちろん、計画や設計、現場管理まで幅広く携われます。特に木造建築を中心にした工務店や建築会社であれば、就職や転職の際、有利でしょう。木造建築に関する専門知識を活かし、二級建築士では対応が難しい工事に携われるため重宝されます。
また、数はそれほど多くはありませんが、神社や仏閣を専門に扱う工務店や建築会社で宮大工として働くこともひとつの選択肢です。
なお、宮大工については、以下の記事でも詳しく紹介していますので参考にしてください。

リフォーム会社
木造建築士の資格を取得していれば、修繕や改修に対応できるスキルが身につきます。そのため、建築物をゼロから作り上げる工事だけでなく、建築物を修繕、改修するフォームにも対応することが可能です。したがって、リフォーム会社へ就職するという選択肢もあります。
リフォーム会社であれば、工事だけでなく営業として活躍できる可能性もあるでしょう。ただし、リフォーム会社ごとに得意とするジャンルが異なりますので、できるだけ小規模な木造建築をメインに扱うところを選択することがおすすめです。木造建築の専門知識が活かせないリフォーム会社の場合、木造建築士の資格を持っていたとしても、宝の持ち腐れになるので注意しましょう。
木造建築士の資格取得方法
木造建築士になるためには国家試験を受験して合格することが条件です。資格取得条件や試験内容、勉強法などを紹介します。
木造建築士を取得するために必要な条件
木造建築士を受験するためには、学歴要件と実務経験要件をそれぞれ満たすことが条件です。
まず学歴要件ですが、学校の入学年が平成21年度の前か後で条件が異なります。平成21年以降に入学した人は、以下の国土交通大臣が指定する、建築に関する科目を修めて卒業しなくてはいけません。
学校など | 定科目の単位数 | 試験時に必要な実務経験年数 | 登録時に必要な実務経験年数 | ||
大学、短期大学、高等専門学校、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校 | 40 | 0年 | 0年 | ||
30 | 卒業後1年以上 | ||||
20 | 卒業後2年以上 | ||||
高等学校、中等教育学校 | 20 | 卒業後2年以上 | |||
15 | 卒業後1年以上 | 卒業後3年以上 | |||
専修学校 | 高等学校卒 | 修行2年以上 | 20,30,40 | 0年 | 0年 |
卒業後1年以上 | |||||
卒業後2年以上 | |||||
修行1年以上 | 20 | 卒業後2年以上 | |||
中学校卒 | 修行2年以上 | 10,15 | 卒業後1年以上 | 卒業後3年以上 | |
修行1年以上 | 10 | 卒業後2年以上 | 卒業後4年以上 | ||
職業訓練校など | 高等学校卒 | 修行3年以上 | 20,30 | 0年 | 卒業後1年以上 |
修行2年以上 | 20 | 卒業後2年以上 | |||
修行1年以上 | 20 | 卒業後2年以上 | |||
中学校卒 | 修行3年以上 | 10,15,20 | 卒業後2年以上 | ||
修行2年以上 | 10,15 | 卒業後1年以上 | 卒業後3年以上 | ||
修行1年以上 | 10 | 卒業後2年以上 | 卒業後4年以上 |
なお、学校への入学が平成20年度以前の人は、条件が異なりますので受験資格を確認しましょう。
次に実務経験要件は設計図書や施工図などの図書と密接に関わりをもちつつ、建築物全体を取りまとめる、建築関係法規の整合を確認するもの。また、建築物を調査・評価するような業務を対象としたものです。
令和2年3月1日に改正され、建築物の設計に関する実務、建築物の工事監理に関する実務、建築工事の指導監督に関する実務など14種類に分類されています。令和2年3月1日より以前の実務経験は、以前の基準で算定され合算されるそうです。
参考:公益財団法人 建築技術教育普及センター/令和6年 木造建築士試験 受験要領
木造建築士試験の内容と難易度
木造建築士試験は、一次試験が学科試験、二次試験は設計製図試験が実施されます。なお、木造建築士の試験内容は以下の通りです。
試験の区分 | 出題形式 | 出題科目 | 出題数 | 試験時間 |
学科試験 | 五肢択一式 | 学科Ⅰ(建築計画) | 25問 | 計3時間 |
学科Ⅱ(建築法規) | 25問 | |||
学科Ⅲ(建築構造) | 25問 | 計3時間 | ||
学科Ⅳ(建築施工) | 25問 | |||
設計製図試験 | あらかじめ公表する課題の建築物についての設計図書の作成 | 設計製図 | 1課題 | 5時間 |
次に試験の難易度ですが、令和元年~令和5年の合格率を紹介します。
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 |
令和4年 |
令和5年 | ||||||
受験者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格率 | 受験者数 | 合格率 | |
合格者数 | 合格者数 | 合格者数 | 合格者数 | 合格者数 | ||||||
学科 | 595人 | 56.1% | 589人 | 53.0% | 706人 | 49.1% | 688人 | 62.6% | 704人 | 65.2% |
334人 | 312人 | 352人 | 421人 | 459人 | ||||||
製図 | 357人 | 59.4% | 337人 | 72.1% | 356人 | 67.7% | 432人 | 59.0% | 479人 | 70.4% |
212人 | 243人 | 241人 | 255人 | 337人 | ||||||
総数 | 637人 | 33.3% | 643人 | 37.8% | 731人 | 33.0% | 719人 | 35.5% | 758人 | 44.5% |
212人 | 243人 | 241人 | 255人 | 337人 |
学科の合格率は50~60%程度、設計製図試験の合格率は65%程度、最終合格率は35~40%程度といえるでしょう。
参考:建築技術教育普及センター/過去5年間の木造建築士試験結果データ
木造建築士の資格を取得するための勉強法
木造建築士の資格を取得するための勉強法は、独学と学校へ通う方法の2種類があります。
まず独学する場合、建築知識など座学に関しては参考書や過去問題集などを購入して勉強できますが、実務ばかりはどうにもなりません。そのため、木造建築士の資格を独学で取得することは、非現実的といえるでしょう。
したがって、木造建築士の資格を取得するためには、学校へ通って勉強することが一般的です。建築学科がある高校や大学、専門学校などの選択肢が挙げられます。
新潟県佐渡島にある伝統文化と環境福祉の専門学校「SADO」では、高い建築技能や国家資格の取得が可能です。
SADOで新設される【建築士技能士養成学科】では、工業高校等ですでに2級建築士受験資格を有している人を対象に、[国家資格]二級建築士+[国家資格]木造建築士+[国家資格]二・三級建築大工技能士の在学中のトリプル合格を目指せるので、木造建築士を目指す人には理想の環境といえるでしょう。また、SADOがある佐渡島には神社267社、寺院281寺、36もの能舞台、古民家など、歴史ある建築物や文化財が現存するため、本物の社寺建築を修復・再建する実習が受けられ、宮大工を目指す人にも最適です。
恵まれた環境下で、「徹底的な現場第一主義」で学べるSADOは、木造建築士への近道といえます。本記事を読んでSADOに興味が沸いた人は、ぜひお気軽にお問い合せください。



木造建築に携わりたい方には必須の資格
木造建築士の国家資格を取得すれば、木造建築の工事や修繕などの仕事に従事できるため、建築業界を志す人はぜひ試験の合格を目指しましょう。また、他の資格と組み合わせることで、さらに幅広い業務に携われるようになるので、年収やキャリアアップも夢ではないでしょう。
木造建築を仕事にしようと思っている人は、本記事の内容を参考にぜひチャレンジしてみてください。
